為替デリバティブ取引
2004年から2008年にわたって、多数の銀行が取引先である優良中小企業に対して「為替デリバティブ取引契約」を行い、これによって大きな被害が発生しています。
金融庁の推計では取引を行った企業数は2万社に及び、数兆円という被害が発生していると考えられています。
当社は早くからこの問題に取り組み、金融ADR申し立てや訴訟のサポートを、契約分析を通して行って参りました。
為替デリバティブ取引につきましても、仕組債同様に、極めて商品性の問題が大きいと言わざるを得ません。実際に分析評価を行いますと、「ゼロコストオプション」とうたわれている商品でありながら、契約時にすでに時価のマイナスが数千万円に上るというケースも少なくありません。
例えば契約書には「契約時にオプションの売り買いを組み合わせてゼロコストにしている」と書かれているのですが、当社で契約時点の時価を計算してみると、4000万円の価値のオプションを5000万円で買い、1億円の価値のオプションを5000万円で売り、合わせて6000万円もの損失が契約時に発生しているといった契約が多く見受けられます。
それから企業側に不利な特約がたくさんついているのも特徴的です。例えば、ある水準より円が高くなると取引額が2倍になって、損失も2倍になってしまうという、レシオ・レバレッジと呼ばれる特約がそうです。為替デリバティブ取引は、為替のリスクをヘッジするために売られているわけですが、このような商品性にリスクヘッジ効果はまったく見出せません。しかもこの2倍になっている部分のオプションは、かなり価値のあるものであるにもかかわらず、企業側はタダ同然で売らされているというのが実態です。
為替デリバティブ取引契約にはこうした商品性の問題が、いくつも存在するのです。
こうした問題点は、売り手である銀行側はよく分かっているのですが、買い手である会社側には契約書を一見しただけではよくわかりません。金融工学やデリバティブの知識がなければ理解できないような商品構成になっているわけです。
そうした商品としてのいびつさは、当社で分析評価した結果として明らかになるところです。
為替デリバティブ取引についての裁判を行うのであれば、こうした金融工学を利用した分析や評価を行うことはとても意味のあることですので、ぜひお勧めしたいところです。
また、為替デリバティブ取引で生じた損害を取り戻す方法としては、裁判のほか、金融ADRの活用も進んでいます。
金融ADRとは、第三者機関のあっせん(仲立ち)によって、取引で生じた損害の一部を金融機関が負担するという制度です。
通常金融機関は、金融商品取引法に定められた「損失補てんの禁止」条項により、当事者間の話し合いで損失の一部を負担する行為を禁じられています。しかし、金融ADRを活用すれば、第三者が関与することで、その損失負担が法律上問題とならないのです。
実際、銀行が販売した為替デリバティブ取引については、金融ADRで銀行がその損失の一部を負担するといった和解案が提示されて、和解がまとまるケースが多いのです。
なお、これは為替デリバティブ取引独特の傾向で、その他の金融商品に対しても同様ということではありません。
金融ADRで得られる成果は残念ながら低下傾向にありますが、相対での話し合いでは決してできない損失の一部肩代わりを、裁判のような時間と費用がかかる手続きを経ずに実現できる可能性があるという点で、損害を蒙った企業にとって、有意義な制度と言えます。当社はこれまで100件を超える金融ADRにアドバイザーとして関与しております。